待ちに待たされたデイヴのソロ・アルバム、「Full Circle」だが、皆さんはもう聴いただろうか?

個人的な話をすると、私がデイヴから「書き溜めた曲をレコーディングしてアルバムを作るつもりだ。君にも協力してもらえないだろうか?」という内容のメールをもらったのは、昨年の新春のことだった。すぐに私はデイヴの日本ウェブサイトを立ち上げることを提案し、同時に彼の計画しているソロCDについて情報を提供してもらった。最初に参加メンバーやデイヴの使用器材について聴いたとき、その豪華さに驚き「これは一体どんなアルバムになるのだろう?」と大きな期待を胸に抱いたことは言うまでも無い。

デイヴから「レコーディングの大部分が終了しようとしている」と連絡を受けたのはそれから約半年後だった。丁度キャラヴァン2回目の来日公演が大成功を収めた頃だ。そしてその数ヵ月後、昨年秋にはデイヴ自らがデモCDを持参して来日し、日本のレコード会社に直接発売に関して交渉を行った。しかし、結果は無念なものだった。「このアルバムは皆がデイヴ・シンクレアに対し抱いているイメージと違う」ということが理由で、彼の望む条件ではどこのレコード会社とも契約できなかったのだ。

しかし、デイヴはくじけなかった。冷静な彼は日本で得られた意見をもとに、帰国後休む間もなく本作の手直しに着手、かくして新たな曲順と新たな楽曲による「Full Circle」が完成したのだ。紆余曲折を経たが、最終的には自主制作としてCDが世に出ることとなった。

過去キャラヴァンでデイヴが提供した作品は、楽曲のスタイルで分類すると大きく二種類に分けられる。ひとつは「For Richard」「Nine feet underground」「The Dabsong Conshirtoe」など、組曲形式で曲が長く、楽器のソロが多いもの。もうひとつは「The show of our lives」「Sally don't change it」など、短い時間に美しいメロディを密度濃く封じ込めてじっくりと聴かせるものだ。そして重要なのは、「Full Circle」で聴ける音楽はどれも後者のパターンだと思う。

すなわち、このアルバムは完成度の高いポップ・ミュージック集である!

私が本作を聴いて最初に思ったのは、「これは長年デイヴの音楽を愛してきた人なら抵抗無く受け入れられる作品だ。しかし『グレイとピンクの地』や『フォー・リチャード』で一般に抱かれているプログレッシヴなデイヴのイメージとは違うな」ということだった。そういう意味では、荒々しいオルガンを弾きまくるデイヴのイメージを追い求める人は、一曲目の「Thru' the night」を聴いただけで愕然とするかもしれない。

しかしじっくりと耳を傾けて欲しい。本作に収録された全12曲はいずれも質の高いメロディを持ち、十分に吟味されたアレンジが施されている。またリチャード・シンクレア、ローザンヌ、ジム・リヴァートンなどの共演者も曲によってベストと思われる人選が組まれている。確かに楽曲のスタイルは曲によって様々でバラエティに富んでいるといえよう。クラブ受けしそうなファンキーなダンス・チューンから、リチャード・シンクレアがしっとりと歌い上げるバラードまで、言うなればまさにポップ・ミュージックの玉手箱だ。

そして、それのどこが「期待はずれ」なのだろう?あの歪んだオルガンが聴けないことの何が期待はずれなのだ?忘れてはいけない、デイヴの音楽で大切にされていたのは常にメロディだった筈だ!彼はプログレッシヴなキーボーディストである前に、メロディアスな曲を書く作曲家なのである!そしてここに収録された12曲はどれも素晴らしく質の高いメロディを持つポップ・ミュージックだ。まさにデイヴの作曲家としての才能が全く枯れていないことを証明した作品と言えると思う。

アルバム収録曲はどれも良いが、「Thru' the night」「Best life of all」「Outside of your love」などアメリカ的色彩の曲もあれば(ジム・リヴァートンの声がランディ・ニューマンによく似ているためもあるけど)、「Without you」「Nowhere to hide」「Peace in time」などいかにも英国的な湿り気を感じさせてくれる曲もある。曲がバラエティに富む、ということはより多くのリスナーに受け入れられる可能性がある、ということでもあるわけだ。驚かされるのは一聴しただけでは地味目かなと思ってしまう曲でも、何度となく聴いているうちに何時の間にかジワジワと身体に沁みつき、気づくと口ずさめるようになってしまうことだろう。そういう意味では買ってからある程度聴きこんだところで真価のわかる作品だし、また同時に聴き飽きない作品と思う。

私が特に好きなのは7曲目「Without you」から12曲目「And when the sun sets」にかけての隙の無い流れだ。アナログ時代ならばこれだけでアナログB面になったのかな、と思わされるが、特に11曲目「Peace in time」は本当に凄い。こんなに優しく美しいメロディの曲はなかなか無いと思う。冗談抜きにキャラヴァン時代の「For Richard」や「Disassociation」にも負けない素晴らしい作品だ。また、多くのファンが注目するであろう、リチャード・シンクレアの歌う「O' Caroline」、「That day」そして「Sancti」もいずれも素晴らしい出来で、近年のリチャードの作品でも名演・名唱といえると思う。中でも私が好きなのはとても切ないラブソング「That day」だ。切なくも暖かいメロディを聴いているとキャメルの「Breathless」に通ずるものを感じてしまうのだが、やはりこれはリチャードの声が聴けることと、デイヴの優しい音楽性があの時期のキャメルに共通しているためだろうか?

とにもかくにもデイヴ、君はやっぱり凄い!このアルバムはデイヴ・シンクレアの代表作にして、2000年代の英ロック界で指折りの傑作になるのは間違いないだろう。今年予定されているリチャード・シンクレアとの双頭バンドによる来日公演も本当に楽しみだ!(2004.02.01)
Reviewed by Yutaka Masuda